また会う日まで

2020年6月30日

今日は夏越しの大祓。
1年の半分を平穏で過ごせたことに感謝し、残り半年の息災を願う日です。

 

さて、上蔟から一晩たった蚕部屋を朝のぞくと。。。

 

5,000頭のなかでも成長が早かった蚕さんたちは、ほぼ自分の部屋を定め、繭作りを始めていました。

一方、そのほかの蚕さんたちは

まだ、〝その時〟がやってきていないのですね。
蔟(まぶし)をうろうろしている姿が散見されます。

養蚕の道具を見ていると本当に機能的なものが多く、舌を巻くこともしばしばですが、
蚕さんたちが繭作りを始める直前にする「大事なこと」のために、蔟の下にセットされたこちら。

黄色い網と、さらにその下のビニールシート。
なんだか分かるでしょうか。

体のなかの不浄なものをすべて外に出してから、長いながい糸を吐くお蚕さま。
うんちとおしっこの受け皿です。

ポタンポタン。ポトッ、コロコロコロ。

上蔟後の蚕部屋では、網とシートにそれらが落ちる音があちこちから聞こえます。
昨晩、その瞬間を撮りたくてややしばらく粘りましたが、ついに叶わず。
眠気に負けて帰宅しました。

なので朝一番の仕事は、排せつ物のお掃除でした。
さらに、蔟から網に落ちてしまった蚕さんたちの救出も。
「どうぞお入りください」と言いながら、1頭ずつに最適物件を案内し、入室してもらいました。

少し体が小さかったり、弱々しい蚕さんたちは、久米さんと里美ちゃんが「カンボジア方式」と呼ぶ床置きの特別室に移されました。
桑の葉をたっぷり置いて、ここで繭を作ってもらうのです。

同じ日に生まれた兄弟たちは繭になっているというのに、まだ葉を食べる蚕さんもチラホラ。

繭作りが始まれば、人ができることはもうありません。
これまで食べた桑で蓄えた力を振り絞り、いい糸を吐いてもらうのを待つのみです。

白くてぷりぷりした5齢の蚕さんに触るのがだいすきでした。
もうその姿には会えません。
文字通り手塩にかけて育てた蚕さんたちが作ってくれる、細く、白く、美しい糸を、今度は紡いで、撚って、染めて、織って、手をかけます。

いのちは終わらない。
〝天の虫〟と書く蚕は、〝草かんむりに糸と虫〟の繭になり、最後は糸に姿を変えて永遠に生き続けます。

(裕)

無事に

2020年6月29日

 

昨日ずーさまのお知らせが来たので、今日は上蔟と決まっていました。
晴れわたり、爽やかな風の吹く朝。繭になっていただくには、ぴったりの始まりです。

 

 

昨日先に一つだけ吊った蔟(まぶし)に入れた蚕さんたちが、光に透ける繭を作り始めていました。
その下には、脱走しそうになっている蚕たち。
「繭になる準備ができているんだよ!」と言っています。

フライングして、蚕ベッドの隅に繭を作りかけた形跡も。

里美さんと久米さんと、組み立てた蔟に蚕たちを移す作業からスタート。

お椀片手に、蚕さんたちを数えて拾う、の繰り返し。

蚕は上にのぼっていく性質があるそうで、区切られた蔟の部屋に入ろうと、もぞもぞ動きまわります。

ちょっと目を離すと、こんなふうに場外に直立していたり

苦しくないのかしら、仰向けになっていたりするのでビックリします。

3頭並んで繭づくりを始めた仲良しさんたちもいました。

こうして5,000頭の蚕をすべて蔟に移したところで、2週間寝ていただいた蚕のベッドは解体。
床もきれいに掃除して、今度はすべての蔟を天井から吊る作業です。

久米さんと里美ちゃん、息を合わせて、7年目の春繭のラストスパートにかかります。

これが終われば、あとはお蚕さまたちに、ただひたすらに糸をつくってもらうだけ。

2週間にわたり毎日、桑を運んでくれた浮船号も、今日で一段落です。
久米さんにピカピカに掃除をしてもらい、車内に香っていた桑の匂いとも一旦おさらば!

無事に5つの蔟が天井から下がり、あっという間に上蔟の1日は終わりました。
まだ部屋が決まらない蚕たちが、もぞもぞもぞもぞ。

蔟が床から目の高さに移動したので観察がしやすくなりました。
繭になる準備が整った飴色の美しい体に、目が釘付けです。

 


上蔟初体験のわたしは、とにかく足を引っ張らないように緊張しっぱなし。
くたびれました。。。

ほっとして、1日の終わりにはいつもの夕景を。
今日の空は、清々しいのにどこかさびしいブルー。
カエルの大合唱を聞きながら、浮船の里に戻りました。

 

蚕部屋では一生懸命、お蚕さまたちが繭をつくっています。
かわいらしい、ピーナツみたいな繭が早くも出来ていました。


(裕)

ずーさま

2020年6月28日

来ました、その時が。

お蚕さまから、「『ずー』になります(なりました)」のお知らせが。

「ず-」とは、繭になる直前の蚕の呼称。
体の色が明らかに変わります。

左がずーさま、右はまだのこ。
飴色になり、ぷりんぷりんに張った体が一回り小さくなるような。
これが〝繭になりますよ〟のお知らせです。

5,000頭のうちずーさまになっているのは、1割にも満ちません。
本格的に上蔟のしつらえにする前に、藁のおうちに移動してもらいました。

ずーさまは、体を大きくのけぞらせます。
そして糸を張る場所を探して、頭を振ります。

こちらは、桑の葉の間に繭を作ろうとしていたずーさまを見つけたので、その場で写したもの。
糸が光に透けて、とてもきれいなのです。

ちょうどずーさまを見つけたとき、小高は朝からの雨が上がり、それはきれいな青空が出ました。
虹を探して外に出たのですが、十分に満足の空。

夜、ふたたび蚕部屋に行くと、さらに数頭のずーさまが見つかりました。
いよいよ明日、蔟(まぶし)を吊して、上蔟の準備です。
今年もいい繭ができますように、今晩は半月によーく願ってから休みます。

 

そうそう、昼間に探していた虹は、夕方に出ました。
大きなアーチを描き、小高の空を包んでくれました。

(裕)

脈打ついのち

2020年6月27日

 

5日ぶりの太陽がでました。

ひと刷毛したような色合いですが、それでもうれしい青空です。

浮船の里の蚕部屋では、五月雨が降っていました。
もとい、目を閉じると、五月雨かと思うような蚕の食事の音が静かに広がっています。
さわさわ、さわさわ。
桑を歯で噛む音なのか、体と桑が触れ合う音なのか。

 

5齢も後半にさしかかり、真上から見ると背脈管がくっきりと見えるようになりました。
体の中心を通る管が、写真で伝わるでしょうか。

 

尾部から頭部に体液を送っているそうです。
この脈打つリズムが早いと元気な証拠、と教わりました。
ドクドク、ドクドク。
いのちの鼓動。

 

今日はお掃除の途中で、こんな色のお蚕さんを見つけました。


下が一般的な色です。なめらかな白色。
脱皮ができなかったのかなぁ、と久米さん。
無事に繭になれるかどうか、特別室で見守ることになりました。

 

1日の終わりには、久しぶりの夕焼け。
小高川の土手を歩いていると、夏の匂いがしました。
かつて山小屋で暮らしていたときに、山で香った、夏の匂い。
ふと、記憶を刺激される、6月最後の土曜日です。

 

(裕)

ごめんね

2020年6月26日

しばらく青空が出ない小高。
曇天のもとだと、桑畑の緑がいっそう鮮やかです。

が、やっぱり青い空も見たいなぁ。

毎朝桑刈りに出かけて最初にすることは、前日お掃除した桑の枝や蚕のふんを捨てること。
場所が決まっています。

昨日はそこで2頭、何日か前に捨てた桑の中からお蚕さまが出てきました。
(健気にも、自分で地上に出てくるので発見できるのです。。。)

今日も1頭、極小の蚕ちゃんが見つかりました。

まるで小枝のようで、でも土の茶色に白が浮き上がっていて、目に止まりました。
というよりも、目が点。

体長が3センチほどのところをみると、どうやら畑に4、5日いた計算になります。
こういうときは誠心誠意、謝るしかない。
ごめんね。
声に出して、謝りました。

そして、今日捨てたばかりの桑からも1頭。
こちらは大きかったので、おそらく昨日のお掃除の時に紛れたものかと思います。

すくい上げた2頭を並べて再度、謝罪。

「いいよ」と言ってくれたかのように、大きな蚕さんがこちらを見上げました(都合のいい解釈)。

浮船の里に戻り、上蔟の準備です。
蔟(まぶし)と呼ばれる、蚕が1頭ずつ繭を作るための部屋を掃除。
去年の秋繭養蚕時に使って以来の登場なので、残っている糸やふんを、ブラシと歯ブラシで取り除きます。

普段はおおざっぱな性格なのに、こういうときだけはなぜか徹底的にきれいにしたくなる性分。
久米さんが10個以上仕上げる間に、わたしが手を付けたのはたったの3個。
ちなみに、1つの蔟にはこれだけの糸が残っていました。

柔らかで軽くて、ふわっふわ。

このかわいらしい姿を見ていられるのも、あと2,3日くらいです。

 

(裕)