終わりのような始まりの旅

2021年6月14日

準備がいつ整うかは、お蚕さま次第。
それは突然にやってきました(と思うのは、きっと人間だけ)。

営繭を始める準備が出来たよ、というお蚕さまからのお知らせに、朝のお掃除で気づきました。
蚕ベッドのあちこちで、すでに糸を張り始めている姿が散見されたのです。
顔を上にあげて、体を弓なりに反らせている姿もちらほら。


毎年久米さんが記録しているお蚕さま日記では、上蔟は翌日の予定でした。
タイミングが来たのなら、人間がやることは粛々と次の段階への準備をすることだけ。
里美ちゃんが陣頭指揮を執り、久米さん、木田ファミリー、小田原チームふたりの計7人で作業に取りかかりました。

ここからほとんど、写真がありません。
なにせ怒濤の上蔟作業。それが10,000頭ともなると、息つく暇も無く、手が空くこともなく、
夕方5時過ぎまで動きっぱなしでした。

桑の葉に埋もれて育った蚕ベッドから蔟(まぶし)へ、お蚕さまを移します。
蔟は1台に1,560頭のお蚕さまが入居可能。お椀に40頭ずつお蚕さまを盛り、蔟へ移動します。

この画像、あったらよかったのですが、見た目には結構ショッキングかも。
もじゃもじゃ、うじゃうじゃ、おんなじような顔が無数にムニョムニョしているのです。

ブツブツと小声で頭数を数えながらひたすら蚕を移動し、蔟がいっぱいになったら蚕部屋に持ってゆく。
その繰り返しです。
計9台の蔟に、引っ越しが終わりました。
ここからはお蚕さまの独壇場。
わたしたちのしごとはまもなく終わりですが、蚕たちはそれぞれ、たったひとりの旅に出ます。
体長10センチほどの体から、1.3キロメートルもの糸を吐く、長いながい旅の始まり。

旅の前の準備で、お蚕さまはわたしたち人間とおなじことをします。

 

 

おトイレです。

念願叶って(何年も通っていて、この瞬間を撮ることが目標でした)、おしっことうんちの瞬間を、ついに撮ることが出来ました。うんちはともかく、おしっこは本当にタイミングが難しいのです。

 

性格や人生の進み具合が十人十色なのも、人間と一緒。
営繭をはじめた蚕もいれば、まだむしゃむしゃと桑を食んでいる蚕もいます。

でもいずれはみーんな、繭になるのです。
ただ、準備が整うタイミングが違うだけ。営繭前のお蚕さまは、こんなふうに気ままに過ごしております。

この薄さだと、糸はどのくらいの長さになっているのでしょう。

 

無事に上蔟が終わった後、みんなで数の当てっこをしました。
配蚕所から来たお蚕さま、箱には「1万」と書いてありました。

ここまで来る途中で命を終えた蚕もいますが、ここまで育ってくれて繭になると、ようやく正確な数が数えられます。
数の予想は、下が8,320から上は10,100まで。

 

いくつでもいい。
お蚕さまの旅が無事に終われば、それでいいのです。

 

(裕)