証(後編)

2021年6月25日

繭かきが終わってすぐ、今度は浮船の里の蚕部屋に戻り、繭玉を数える作業に取りかかりました。

佐藤さん宅から持ち帰った繭は、土嚢袋6つ分。
手前の土嚢袋に乗っている繭は、入居可能物件として案内された蔟(まぶし)に空き部屋がなく、
仕方なしに場外で営繭したお蚕さまが作ったもの。
この辺は完全に人間の采配ミスです、ごめんね。

できた繭は、100個ずつ袋に詰めて冷凍します。
小高い繭の丘を少しずつ切り崩しながら、汚れが目に付くものは取り除き、うっすらと絡みつくケバをむしり取り、ひたすら100を数える地道な作業。
土嚢袋5つで繭5,000個分をカウントしたところで、お昼になりました。

 

午後、作業再開からしばらくして、繭って卵に似てるね、という話題になりました。
すると里美ちゃん、「黄身と白身を分けようとしてるときに、くっついて全部ズルッとボウルの外に落ちちゃった時って切ないよねぇ」とポツリ。
久米さん「そうだねぇ。どうしようもないもんねぇ」
卵談義に一瞬花が咲き、また黙々と100の呪文を唱え始めました。

女性は並行作業が得意、と言われています。
手と頭で、同時に全然違うことができる、ということ。
他愛ないおしゃべりに茶々を入れながら、繭の山は低くなっていきました。
そして午後3時、山は更地になりました。


この時点で、100個入りの袋を10詰めて、1袋1,000個の繭が入っている計算になる土嚢袋は9つ。

手前のザルは、まだこれからケバ取りをするものや、汚れが目立つので除けた繭。
ざっと2つで1,000個くらいはあるんじゃないだろうか。
となると、出来た繭は10,000以上、と言う計算になります。

最終的な数の集計は、あすに持ち越されることになりました。
(疲れちゃったのです!みんな)
ゆえに、小田原に帰宅してブログを書いている時点では正確な数が未発表のため、こちらは確定次第、久米さんと里美ちゃんから改めてお知らせして貰うことにします。

 

お蚕さまが一生懸命に作ってくれた繭。
軽くて、ちょっとショワショワした感触の、不思議な心地です。
フォトジェニックな美繭を集めて、里美ちゃんの手のひらに乗せてパチリ。

きれいだなぁ。見とれちゃう。

 

向かって左は、極小繭。
右は親繭。親繭とは2頭の蚕が一緒になって営繭した、大きめサイズの繭です。

こちらは運命の相手だったのかな。固く抱き合って(でもちゃんと、親しき仲にも礼儀あり、で別々に籠もってます)営繭してくれたお蚕さまたち。

 

繭かきの時に佐藤さん宅で、親繭を一つ切り開いてみました。
糸でありながら、和紙をもう少し厚くしたような、しっかりとした質感。
そして、この時点で既に光沢があるのです。

そうそう、前編でお伝えした「一つの蔟(まぶし)がほぼ入居率100%」がなぜよくないかと言いすと、自分の部屋を求めてウロウロするお蚕さま、途中で少しずつ糸を吐きながら移動するそうなのです。
つまりいざお部屋を見つけて営繭をはじめても、ウロウロ時に吐いた分の糸長が短くなってしまい、収量にも影響が生ずるということ。
1頭だけならたいしたことはないのですが、あまりに場外営繭の蚕が多いと全体の収量が減ってしまいます。塵も積もれば、ですね。

 

こうして2021年の春繭は、すべての作業が終わりました。

土嚢袋に収まった繭玉は、おいしい桑をたっぷり食べて美しい絹の糸を吐き出した、お蚕さまの命の証。

そして10,000頭を育て上げるべく奔走した、久米さんと里美ちゃんの努力の証です。

 

 

いっときは激しく降った雨がいつしか止み、ふと見れば空にはうっすらと、虹。
最高のごほうびに心を満たしながら、浮船の里を後にしました。


(裕)

証(前編)

2021年6月24日

数日前に、東北も梅雨入りしました。
今朝の小高は澄んだ青空も一部広がりつつ、爽やかな空気です。

この広い空、だいすきです。
ただいま、小高。

さて、今日は「繭かき」。
営繭から10日が経ち、すっかり糸を吐き終わったお蚕さまを、蔟(まぶし)から外す日です。

入居率がほぼ100%の蔟。こんなにみっちりお部屋が埋まる状況は、過去にありませんでした。
これはちょっとよくない。なぜよくないかは、後編で説明します。

こちらは例年通り、脱走する蚕たち。

 

 

 


どこにいても、里美ちゃんの厳しい目は見逃しません。
これを見落とすと、あと4,5日後にはふわっふわの真っ白なモスラが登場することになってしまうから。
とりあえず今年は、目に付くところにばかり脱走してくれたので、ぜんぶ回収できました(はず)。

ちなみに脱走こそしないものの、なにもこんなところで営繭しなくても、と思うような蚕さんたちも例年通り。

一緒が良かったのね。

そして本当に小さくちいさく、お部屋の片隅に営繭したお蚕さま。
愛おしいです。

 

繭かきは、桑畑をお借りしている佐藤さんご夫妻に協力を仰ぎます。
90枚の蔟を積んで、一路佐藤さんのお宅へ向かいます。
今日が終わればことしの春繭はひとまず終了、と思うと自然とみんなの顔がほころぶような。
(そのくらい10,000頭の養蚕は大変でした。。)
浮船号の後部座席から、里美ちゃんと蔟を激写。

すぐに佐藤さん宅へ到着しました。

繭かきの前には大事な作業があります。営繭の途中で力尽きたお蚕さまを探して、先に取り除くこと。
これをしないと繭を取り出す機械の中で蚕が潰れて、他の繭を汚してしまうのです。

 

蔟を光に透かしてチェックする里美ちゃんの横顔は、真剣。

 

整列した繭も、ここで見納め。

 

佐藤さんご夫妻です。
公一さんが蔟をマユクリン(機械)に入れ、ヨシ子さんが取れた繭を袋に詰める。
さすが、抜群のコンビネーションです。

 

最後なので、自称ブログ担当もちょこっと登場させていただこう。
自慢のたくましい上腕二頭筋(で合ってるかな)にモノを言わせて、繭の詰まった土嚢袋をヨイショ!

といいながら、実は全然重たくないのですが。。

 

こうして繭かきは無事に終わりました。
その後は、楽しみにしているお茶っこの時間。
ヨシ子さんお手製のきゅうりのお漬物とおせんべいを囲んで、お疲れさま会です。

最後までやってくれました、久米さん。
里美ちゃんによると去年もやっていたそうですが、長椅子の端っこに一人で先に腰掛け、自重でひっくり返りそうになり、絶叫!
大笑いしながら写真を撮って、あとで見返してまた笑う。
両手ですがりつく久米さんに対し、冷静に腕を貸す里美ちゃん。

繭かきに同行した小高区役所のKさんとYさんも、びっくりしながら大笑い。
二人で一緒に座りましょ、ということを、来年はちゃんと覚えているといいね、久米さん。

ひとまずここまでで前編終了です。
繭はいったいいくつ出来たでしょうか。
浮船の里に戻ってのカウント結果含め、お楽しみは後編へ!

 

(裕)

捧げる

2021年6月15日

月曜日、蔟(まぶし)に移動してもらったお蚕さまの様子を覗くと、営繭(えいけん)が始まっていました。

養蚕でいちばん興味があるのが、営繭の観察。
糸を吐く様子を見るのは、本当に飽きません。

まだ、丸い繭のかたちができる前の薄さ。

 

かたちができ始めてきました。

 

黙々と糸をはくお蚕さま。
通常は蔟(まぶし )の一部屋ごとに作ってもらうのですが、今年もいました。場外に営繭してくれるお蚕さま。

蔟(まぶし)を天井から吊る作業をしようと、うんちとおしっこ用に敷いていたダンボールをペラッとめくったら。。。

なかよく場外営繭です。

 

ねえねえ、きみは一体、どこに繭をつくるんだい?

 

 

ぼくはみんながよく見えるように、お部屋の外に。

 

 

わたしも、外がよく見えるように、明るいところで。

 

 

ぼくはちょっと出遅れちゃったから、みんなの様子を見て、営繭の仕方を勉強してから始めるね。

 

 

9つの蔟(まぶし)がすべて天井から吊られて、床をお掃除してひとまずこれでひと段落。

1週間後には、立派な小高育ちの春繭が完成します。

 

土曜の桑刈り、日曜の上蔟、月曜のお掃除。
怒涛の2日半でした。
そしてお蚕さまだけに捧げた2日半。
たった2日半のお手伝いで疲労困憊したのですから、毎日お世話をしていた久米さんと里美ちゃんはいかばかりか。

 

ニュースも新聞も、ほぼ見なかった小高での時間。
お蚕さま一色の生活は、貴重な経験になりました。

 

(裕)

終わりのような始まりの旅

2021年6月14日

準備がいつ整うかは、お蚕さま次第。
それは突然にやってきました(と思うのは、きっと人間だけ)。

営繭を始める準備が出来たよ、というお蚕さまからのお知らせに、朝のお掃除で気づきました。
蚕ベッドのあちこちで、すでに糸を張り始めている姿が散見されたのです。
顔を上にあげて、体を弓なりに反らせている姿もちらほら。


毎年久米さんが記録しているお蚕さま日記では、上蔟は翌日の予定でした。
タイミングが来たのなら、人間がやることは粛々と次の段階への準備をすることだけ。
里美ちゃんが陣頭指揮を執り、久米さん、木田ファミリー、小田原チームふたりの計7人で作業に取りかかりました。

ここからほとんど、写真がありません。
なにせ怒濤の上蔟作業。それが10,000頭ともなると、息つく暇も無く、手が空くこともなく、
夕方5時過ぎまで動きっぱなしでした。

桑の葉に埋もれて育った蚕ベッドから蔟(まぶし)へ、お蚕さまを移します。
蔟は1台に1,560頭のお蚕さまが入居可能。お椀に40頭ずつお蚕さまを盛り、蔟へ移動します。

この画像、あったらよかったのですが、見た目には結構ショッキングかも。
もじゃもじゃ、うじゃうじゃ、おんなじような顔が無数にムニョムニョしているのです。

ブツブツと小声で頭数を数えながらひたすら蚕を移動し、蔟がいっぱいになったら蚕部屋に持ってゆく。
その繰り返しです。
計9台の蔟に、引っ越しが終わりました。
ここからはお蚕さまの独壇場。
わたしたちのしごとはまもなく終わりですが、蚕たちはそれぞれ、たったひとりの旅に出ます。
体長10センチほどの体から、1.3キロメートルもの糸を吐く、長いながい旅の始まり。

旅の前の準備で、お蚕さまはわたしたち人間とおなじことをします。

 

 

おトイレです。

念願叶って(何年も通っていて、この瞬間を撮ることが目標でした)、おしっことうんちの瞬間を、ついに撮ることが出来ました。うんちはともかく、おしっこは本当にタイミングが難しいのです。

 

性格や人生の進み具合が十人十色なのも、人間と一緒。
営繭をはじめた蚕もいれば、まだむしゃむしゃと桑を食んでいる蚕もいます。

でもいずれはみーんな、繭になるのです。
ただ、準備が整うタイミングが違うだけ。営繭前のお蚕さまは、こんなふうに気ままに過ごしております。

この薄さだと、糸はどのくらいの長さになっているのでしょう。

 

無事に上蔟が終わった後、みんなで数の当てっこをしました。
配蚕所から来たお蚕さま、箱には「1万」と書いてありました。

ここまで来る途中で命を終えた蚕もいますが、ここまで育ってくれて繭になると、ようやく正確な数が数えられます。
数の予想は、下が8,320から上は10,100まで。

 

いくつでもいい。
お蚕さまの旅が無事に終われば、それでいいのです。

 

(裕)

免疫力

2021年6月13日

ご無沙汰しています。
今日も広く青い空の小高から、2021年の春繭の様子をお届けします。

浮船の里のFacebookページをご覧いただいている方はすでにご存じのように、今年は多いです。
例年5,000頭のお蚕さまが、、、今年は倍!

10,000頭来ました。

 


これだけの数が居るので、当然なにをするにも時間がかかる。
久米さんと里美ちゃん、いつもと手順を変えてお掃除を先に、桑刈りは後になど、試行錯誤で8年目のお蚕さま仕事に臨んでいます。

それでも(それだから?)二人とも、とても元気です。
朝の5時から、手も良く動きますが口もよく動く(笑)
爽やかな朝の空気に軽やかなおしゃべりが溶けて、お蚕さま仕事で免疫力アップしているのかしら、と思うほど。

久米さんにカメラを向けたら、マスク越しでも十分伝わる笑顔で応えてくれました。


蚕部屋のお掃除が終わると、次の仕事は桑刈りです。
今年も佐藤さんご夫妻が丹精込めてくださったおかげでみずみずしく成長した桑を、10,000頭のお腹を満たすべく、せっせと刈っていきます。

途中、熟した桑の実をぽいぽい口に放りこめるのは、畑仕事の特権!
浜通りでも27℃に達した今日の暑さ、桑の酸味で気合いを入れ直しました。


ところで、浮船の里で育てられる蚕には「久米さんにくっついて旅をする」というDNAでも組み込まれているのか、と思うほど毎年さまざまな場所に出没するお蚕さま。


お孫さんの部屋やら、うわっぱりの裾やら、最早そんなに驚きもしないのですが、予期せぬ場所で見つかれば、やはり、なんでそこに??と思います。
今日はお掃除の途中で、割烹着のポケットの中におわすところを見つけました。

桑刈りが終わり、一息ついたのが午前10時半過ぎ。
近所のカフェでおいしいコーヒーをいただいて、リフレッシュしました。

目の前に広がるのは緑の田んぼと澄んだ空、聞こえるのはさわさわという風の音と鳥の声だけ。
これこれ、これが〝小高時間〟なのです。
動画を撮ったのですがアップできなくて残念。思いおもいに、〝小高時間〟をご想像ください。
そのあとは午後2時と7時にたっぷり桑をさしあげて、今日のお蚕さま仕事が終了。
(あしたは4時半起きだそうです。。。)


一日の終わりは、こんなやさしい夕焼けでした。
あしたはどんな日になるだろう。
あしたのお蚕さまは、もっと大きくなっているのかな。
ふと、思いました。
ただひたすらに桑を食む10,000もの命に触れていることで、免疫力が上がるのかも。
ぷりぷりとした滑らかな感触のお蚕さまを思うと、そんな風にも感じます。

 

(裕)