小さな織姫

2015年9月30日

シルバーウィーク最終日を前にして、

突然、「福島をみてみたい」と言いだした9歳の娘。

これまでは誘っても「行きたくない」と断られていたのに、

どうした風の吹き回しか。

それで、急遽、行くことにしました福島へ、南相馬へ、小高へ。

三年間通い続けた小高を、初めて娘に見せてあげられると思うと、

こちらも何だか興奮します。

本当は家族で行きたかったけれど、

3歳の息子は夜中に喘息の発作が出てしまったので断念。

妻と息子を置いて、娘と二人だけで常磐道を一路、

福島に向かいました。

いつもは仙台や福島からレンタカーで来るから、

常磐道で行くのは実は初めて。

いわき過ぎて、四倉過ぎたら、一車線に。

そして、原発20キロ圏内に入って、帰宅困難区域を抜ける。

帰宅困難区域の風景は、原野そのもの。

6号線沿いは、まだ草を刈ったりしているけれど、

常磐道沿いは本当に原野。黄金の稲穂が垂れる時期だけに、

違いが際立ちます。

それはとても哀しい光景でした。

 

娘も、20キロ圏内に入ってから口を閉ざします。

原発とか放射能とか、説明してもよくわかってもらえないのだけど、

この風景の異様さはわかるのでしょう。

浪江ICで降りて、小高へ。そして、浮船の里「あすなろ広場」へ。

久米さんが一人で待っていてくれました。

お蚕様はもう繭になったと聞いていたけれど、

繭になるのが遅れた子達がまだ蠢いています。

よかった。娘に生きているお蚕様、やっと見せてあげられた。

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頭上のカイテンに綺麗におさまった繭に驚いていた娘は、

久米さんに促されるままお蚕様に触れ、手に乗せてみます。

その途端、娘の顔がパーっと輝きました。

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お蚕様と戯れた後は一服。

あすなろ広場に常備されているお菓子の箱が出てきて、

「好きなのとっていいよ」と久米さんにすすめられる娘。

でも、選べません。いっぱいありすぎて目移りしちゃうみたい。

そんな娘に、「いっぱいあると選べないんだよね」と言って、

二つだけ渡して「どちらかを選びなさい」と言う久米さん。

「選べると思うと選べないんだよね」

「私たちは全部なくしたの。でも、なくしたからわかったの」

お菓子の話が、いつの間にか、小高の話になっていました。

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ようやく一つのお菓子を選んだ娘は、今度は機織りを体験。

娘のために久米さんと里美さんが糸を通しておいてくれたのです。

足で踏んで経糸に隙間をつくり、シャトル(杼)を使って緯糸を通す。

そしてトントン。

今度は別の場所を踏んで、逆から杼を通す。

そしてまたトントン。

この繰り返し。

ちょっと気を抜くと、通さない経糸が出てくる。すると変になる。

それで気づいたら、おかしくなったところまで糸を戻して、

もう一回、そこからやり直す。

この繰り返し。

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最初は戸惑っていた娘も、すぐに要領をつかんで、

あとは一人で黙々と作業。

その間、久米さんと僕は、最近の四方山話。

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そうしているうちに、「変になった〜」と娘。

そのたびに、直しに行く久米さん。

なんかいいなぁと思う。

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昔は、こうやってお祖母ちゃんから孫へと手仕事が

伝えられていったのでしょうね。

手仕事を通じた付き合いはいいですね。

手が触れ、体が重なり、呼吸が合わさる。

こういうことを通じて、人は受け継ぐんですよね、

有形無形のものを。

そういう教え方が今は少なくなりました。

でも、今の浮船の里にはそれがあります。

奪われたもの、失われたものはとても大きかったけれど、

こういう静かな時間を持てるようになったことは、

とても大きなことなんだろうなぁと思いました。

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好きな長さまで織っていいよと言われた娘は、

テーブルセンターだかコースターだかわからない

不思議なものを織り上げました。

久米さんに手取り足取りしてもらいながらだけど、

とにもかくにも自分の作品を織り上げた娘。嬉しそう。

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その後は真綿から紬糸づくりに挑戦。

こちらも真剣そのものの表情で取り組む。

 

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でも、後で聞いたら、機織りのほうがやっぱりずっと楽しかったそう。

紬作業は、子どもには渋すぎますかねw。

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一通りの作業を終えた頃、

聡子ちゃんがお客さん連れてやってきて、突然、賑やかに。

静かな時間は終わって、あとは女子トークの時間。

久米さんに呼ばれた娘は、膝の上に抱っこしてもらいながら、

女子トークに微妙に参加。

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そんなこんなしているうちにあっという間に15時を過ぎました。

10時半に着いたから、5時間くらいいたことになる。

お昼も食べず、ひたすら作業とおしゃべり。

名残惜しいですが、妻たちが待っているし、

渋滞にもはまりたくないので、帰ることに。

 

別れ際、久米さんが娘をハグしてくれました。

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「また来なさい」と娘に静かに別れを告げる久米さんは、

完全にお祖母さんの顔でした。

お祖母さんの久米さんは、

子どもとの距離の取り方が絶妙で、

「ああ、こうすればいいんだ」と教えられることばかり。

短時間だったけれど、

子どもとの向き合い方とか、

人との接し方とか、そういうことを凄く考えさせられて、

とても得るものの多い時間でした。

 

帰り道の車の中、娘に「久米さんはどうだった?」と聞いたら、

「久米さんは特別な人。人に元気をあげられる人」との答え。

子どもは、いろいろなことを感じて、

いろいろなことをわかっているんですね。

 

往復700キロの小高への日帰り旅はこうして無事に終わりました。

今度は家族で来ようっと。

(岳)