野山がほんのり薄紅に色づき始めると、どうしてこんなに心浮きたつものなのでしょう。
今年の桜だよりが、まさか3月中になろうとは思ってもみませんでした。
不在の間、普段生活している関東圏は曇天続きだったようで、出先の福島で晴天に恵まれたのは幸運でした。
駆け足でめぐった相双地域の春を、ご一緒にお楽しみいただけたらうれしいです。
小高神社
境内の枝垂れは翼を広げた鳥のようです。
小高川沿い
ゆっくり目の開花のような。
これが例年通りですね。
請戸川沿い
少し南下しただけで、だいぶ違います。
富岡町
夜ノ森駅周辺に初めておりたちました。
テレビで見たことのある桜並木、圧巻でした。
これから動き出す時間があることを知りました。
(ゆ)
ひさびさの小高に来ました。
3月末の行事といえば、ことしのお蚕さま仕事はじめ。
そう、「桑刈り」です。
桑畑をお借りしている佐藤さんご夫妻の教えをよーく聞き、春繭の時期(6月)に青々した葉をたくさん付けてくれるよう、肥料をまき、桑の枝を剪定します。
桑畑のまわりの畦道には、タンポポやオオイヌノフグリが咲き、フキノトウの花が開いていました。テントウムシもいそがしく歩きまわり、チョウチョもひらひら。
小高に春が来たんだな、と実感する光景です。
桑刈りには、毎年東京電力さんが助っ人に来てくださいます。
おとな12人で黙々と1時間半、桑はさっぱりとした姿に生まれ変わりました。
余談ですが、全国各地の桜のたよりに漏れず、今年は小高でもだいぶ早く桜が咲き始めました。
写真右寄り、麦わら帽をかぶった久米さんのそばに写るベニシダレが、もうこんなに存在感をあらわしています。
いつも通り、桑刈り後に集合写真も撮りました。
昨年と同じ方が作業に来てくださったおかげで、スムーズな作業でした。
あとはお日さまを燦々と浴びて、雨の恵みをたっぷり受けて、おいしい葉っぱをつけてもらいましょう。
春のお蚕さまを迎えるまで、2ヶ月と少し。
浜通りを訪れる際には、原町区堤谷の国道6号沿いの桑畑の成長を気に留めていただけるとうれしいです。
ところで、なんか写真に既視感があるなぁ、、、と思ったら。
参加者みーーーんな、去年の桑刈りと格好がほぼ一緒!!
既視感、あるはずだ。
このブログ、例によって久米家の台所で書いているのですが、お風呂上がりの久米さんが目の前で頬のリフトアップをしています。
「日焼けした~!」
そりゃそうでしょ。
洗顔後、日焼け止め的なもの、なんにも塗ってないじゃない。
お肌が気になるお年頃の久米さんは、相変わらず元気です。
(ゆ)
上蔟から10日。
ここのところ急に気温が下がり、すっきりしない空模様が続いていました。
繭かきの日。
小高の空はこんな晴天に恵まれました。
佐藤さんご夫妻のお宅を訪ね、機械をお借りしての作業です。
これまで10回以上はお邪魔しているはずですが、初めて見る道具がありました。
その名も蚕入機。
上蔟のとき、蚕さんたちがお部屋に入りやすくするための道具です。
それから手動の繭かき機。
繭を取り出す作業に、かつてはこのような道具を使っていたそうです。
さてさて、今年の繭はどんな出来でしょう。
おお、この簇(まぶし)は入居率が高いな。
光に透かして、薄い繭やシミのある繭をあらかじめ取り除いたら、「マユクリン」の出番です。
ひとつずつになった繭が入るカゴがいっぱいになりました。
育てている最中から、「今年は多いね」とみんなで言っていた蚕の数。
いったいいくつになったのでしょう。
作業が終わったら、いつも通りみんなでお茶の時間です。
おかあさん手作りのお漬物、梨におやつ。
何度もお茶をお代わりして、よもやま話に花が咲きました。
残るは繭のカウントのみ。
浮船の里に戻って、100ずつ数える時間です。
「いい繭ができたねー!」の久米さんの笑顔。
光があたると、絹糸はきらきらと輝きます。
それは携帯のカメラでは撮りきれない美しさ。
こちらは毎回探すのが楽しみな、個性的な繭たち。
狭くなかったかなぁと心配になる小さいもの、いったいどんな動作でこんなに細長くなったのかと思うもの、十人十色の繭たち。
下の二つは美繭です。
ひとつ開けて、中のサナギを出してみました。
折り畳まれた羽がわかるでしょうか。手のひらであたたまると、うにうにと動き出します。
今年できるようになったこと。
亡くなった蚕にさわれるようになったことと、サナギを持てるようになったこと。
大きな進歩です。
繭は4,396個でした。
あれ、5,000個なかった!
あんなに「たくさんいるよね」と言っていたけれど、数えてみたらこの結果。
今年のお蚕さま仕事は、これで本当にぜんぶおしまいです。
最後に原町区で見つけたひまわり畑に寄って、帰宅します。
写真を撮っていたら、女性が通りかかりました。
きれいですね、と声をかけると、ご近所の方と一緒に植えているとのこと。
畑の目の前にお住まいの方でした。
来るたびに知らない景色に出会える。
来るたびに感動する景色がある。
いいところなんだなぁ、南相馬。
(ゆ)
帰る日の朝。
今日は穏やかな色調の日の出でした。
波もゆったり。
蚕小屋はまだ、静かな音のなか。
サワサワよりもショワショワが勝ってきたように思います。
上蔟の準備のときに蔟(まぶし)をちょっと壊しました、わたし。
そのおかげで、正位置に納まらなくなってしまった蔟が隣同士で密着し、空中営繭をする蚕が現れました。
そっと剥がして、続きをどうぞ。
今日はさすがにブログのネタはもうないよねぇ、と話しながら帰る前の最後のお茶を飲んでいると、
里美ちゃんが「久米さん、うしろ」
え?
左後ろの麦わら帽。
久米さんの愛用品です。
その頭頂部付近に
いました。
蚕。
なして?
なしてなの?
いつ付いたの?
よく思いだしました。
おそらく昨日の午後であろうと。
9月末とは思えない暑さの小高、日中たしかに帽子を被っていました。
その後、昼寝(久米さんの)中は床にほおっておかれ、今朝も近くで掃除機をかけたのに気づかれず。
最後の最後に救われました。
この表情ですが、いちおう蚕にむかって「ごめんねぇ」と言っています。
蚕さんは丁重に、蚕小屋に運ばれていきました。
さぁ、帰ろ。
(ゆ)
無事に上蔟が終わると、わたしたちの生活も通常運転に戻ります。
朝、お寝坊ができる!(といっても、早起きがなくなりいつもの起床時間に戻るだけ)と喜びたいところですが、小高に来たら、この時期だけの楽しみを見逃すわけにはいきません。
海から昇る朝日をみること。
浮船の里の蚕小屋から車で3分ほどの村上海岸は、だいすきな日の出スポットです。
昨日はあいにく焼けなかったので、今日に期待していました。
5時33分。
じんわりと、紅から青に変わっていく空。
ゆっくりと太陽が顔を出し、空が明るさを増します。
一定のリズムを刻む波に合わせて、自然と呼吸が整う感じ。
満足して海を後にしました。
昨日、蚕ベッドから個室マンションにお引っ越しした蚕たち。
つつがなく入居が終わったでしょうか。
まだうろうろとお部屋を探している子はいますが、とりあえず入居一歩手前までは来たようです。
カンボジア方式の桑の葉ベッドでも、着々と営繭が進んでいる様子に一安心。
あとは繭づくりに専念してね。
養蚕の道具もろもろをかたづけながら、「あぁ、今年も終わったな」と思いました。
まだ9月なのですが、秋繭が終わると確実に年の瀬感が襲来します。
そんな話を久米さんにしたら「ほんと、そんな感じ。もう今年は終わったね!」と達成感に満ちた(疲労感も少々)顔で同意してくれました。
桑の運搬に大活躍してくれた浮船号(軽バン)をきれいに掃除し、桑畑をお借りしている佐藤さんご夫妻に上蔟の報告に行き、最後のおしごと「繭かき」の日程を相談して帰ってきました。
そうそう、ひょこっと覗いた桑畑で、昨日までに捨てた桑の枝のなかから、健気に野生で生きていこうと頑張っていた蚕さんを1頭見つけました。
ごめんねぇ。。
心からお詫びして、桑の葉に乗って浮船に帰還してもらいました(この蚕さん、帰る道中で糸を吐き始めました)。
いまは蚕小屋に2種類の音がします。
ショワショワショワショワショワショワ
蚕が糸を紡ぐ音。
サワサワサワサワサワサワ
まだ食べたい蚕たちが桑を食む音。
2,3日もすればサワサワはショワショワに変わるでしょう。
この秋は、いくつの繭がとれるかしら。
おしまいに、ブログで載せきれなかった写真たちをここで大放出しようと思います。
2022年の秋繭の思い出に。
(ゆ)