似て非なるもの

2022年9月18日

台風から逃げるように、小高に来ました。

なんってったって昨日、秋のお蚕さまが浮船の里にやってきたのです。
これは会いに行かない訳にはいきません。

春に続き、5,000頭。
起きて4齢の蚕は、チョコレート菓子の小枝にそっくり。ちいちゃくて、かわいいのです。
久米さんと、朝一番で桑刈りに行きました。
春は生育に気をもんだ桑の枝、今回は大が100個つくくらいの成長ぶり!本当に美しい若緑の葉が高々と生い茂り、いくらでも蚕に食べてもらえそうな姿で安心しました。

今日の小高は、台風の影響もあってか蒸し暑い一日でした。
汗をふきふき桑を刈ります。

そうそう、この秋はクワコによく出会います。
クワコとは、野生の蚕さん。おおまかなシルエットは家蚕と同じなのですが、色が明らかに違います。
見つければ桑畑に置いてくるのですが、葉について帰ってくることもあったりして。

真ん中がクワコです(囲まれちゃって、ちょっとイチャモンつけられているみたい。。笑)

新鮮な桑をたっぷりあげて掃除をして、わたしたちもひと休みしてから小高のまちを飛んで歩いていると、桑畑を貸してくださっている佐藤さんのおかあさんの姿が見えました。

声を掛けたら、始まったのはミニ講習会。
丁寧に、桑の枝を伐る場所、伐り方、葉の残し方を教えてくださいました。


あっという間に一日が終わり、夕方6時半、寝る前のご飯タイムで蚕小屋を訪れたときにふと思いました。
こうして何年も同じこと(数は異なるときもあるけれど、6月と9月に約5,000頭の養蚕)をしているはずなのに、どうして毎回新鮮な気持ちでいられるんだろう。
目の前にいる蚕さんたちとも「初めまして」なら、ここにいる自分自身の心持ちも違う。
わたしたちはいつも新しい毎日を生きている、ということなんでしょうか。

明日になったら、小枝からどのくらい成長しているかしら。
さわさわそよぐ桜並木の葉の音を聴きながら、久米家の台所で新しい明日に思いを馳せます。(ゆ)

今日という日

2022年7月8日

小高の街に、3年ぶりの開催に沸く野馬追の旗が掲げられました。

3週にわたる小高通いの、最終コーナーです。
1週目、お蚕さまのお世話。
2週目、上蔟。
今回は、繭かき。

美しい春繭ができそうだ、ということは先週お伝えしました。
さて、全部完成したかしら。。。

蚕小屋の天井に吊られていた蔟はすべておろされ、床に置かれたカンボジア方式の蚕ベッドが、静かにそこにありました。
乾燥した桑の葉の裏やベッドの枠に、できてる、できてる。
大小さまざまな、お蚕さんたちの努力の勲章が。
(左手前のほうにひょろっとある、細長い白いものの正体はのちほど)

こんなちっちゃい繭もありました。

 

蔟から繭を外す「繭かき」は、そのシーズンの集大成といえる作業です。
毎年大活躍の繭とり機「マユクリン」の稼働を前に、佐藤さんのおとうさんとおかあさんの指導のもと、繭チェック。


日の光に透かして、薄くて弱い繭や中でお蚕さまが力尽きた繭などは事前によけます。

ブイーーン!と勢いよく動き出した機械に蔟を送り込むと、一つずつになった繭がポンポンと飛び出してきます。


そして機械の反対側からは、羊毛のようなほわほわの塊。


繭づくりの時に蚕さんたちが体を固定させるために張り巡らせた最初の糸などが、こちらです。

無事に繭かきが済み、こちらも毎年楽しみなお茶っこの時間も終わって、浮船の里に戻ってきました。
ここからは良繭を100個ずつカウントしながら袋詰めする作業です。

できました、2022年の「マウント繭」(命名byはるかさん)!
カンボジア方式で営繭してくれた蚕さんたちの作品も、丁寧に取り出しました。

たくさんの美繭のなかで、やっぱりいる、いる。個性派の子たち。
こちらは最小サイズと最大サイズの比較。
「親繭」と呼ばれる、2頭の蚕が一緒に営繭したものや、今年のベスト・オブ・美繭(個人的感想)などを手のひらに乗せてみました。

今年できた春繭は、約4,500個。
桑の成長に気を揉んだり、暑さに参ったりしながらも、いい繭がたくさんとれました。
4週間蚕さんたちを守ってくれた蚕小屋をお掃除して、すっかりきれいにすると、あぁ、無事に終わったんだなとちょっとしんみり。
養蚕期間中に浮船の里を訪れてくださった方々、片付きましたよー!

さてさて、冒頭のカンボジア方式の蚕ベッドの写真で、左手前に写っていた細長い白いものは、、、

毎年かならずいる、繭にならない子。
新しい桑の葉をあげたら、そっと食んでいました。
いいよ、いいよ。
あなたにはあなたの「今日」がある。
この蚕さんにはこの蚕さんの人生が、わたしたちにもわたしたちの日々が、流れます。
今年の養蚕のお手伝いのごぼうびに、久米さんが、手作りのヘアゴムをくれました。
小高産の繭で織った生地から作った、この世に一つだけのゴム。
うれしいな。

桑畑は、秋の養蚕に向けて佐藤さんご夫妻が早速お手入れを始めてくださいました。
先週の上蔟のあとに、残っていた枝葉をぜんぶ落としてから1週間。
すでに新しい芽が出てきています。

浮船の里は、9月にふたたび秋のお蚕さまを迎えるまで、すこぅしゆっくりいたします。(ゆ)

 

 

後ろ髪

2022年7月1日

蚕さんたちが一生懸命に糸を吐いている木曜の朝は、美しい朝焼けでした。夢の中にいるひとも、起きて写真を撮っているひとも、まだ桑を食べている蚕さんも、もう真っ白い繭を作り上げた蚕さんも。みんなを等しく包み込む、小高の朝です。

 

蚕部屋も朝から30度近い熱気に包まれるなか、毎年恒例の光景が。

蔟から遠く離れた床で営繭。
蔟は蚕の重さで回転するので、もしかしたら振り落とされてそのままここで繭づくりに踏み切ったのかもしれません。

 

個室の外で営繭。
快適(はなず)な個室完備なのですが、型にはまりたくない蚕さんたちが集まったのかしら。
この場所だけが混んでいるので、なにか魅力があったのかな。

ほぼお部屋に入ったお蚕さんたちですが、まだ桑を食べているマイペース組もいます。

いいよ、いいよ。好きにやって。
最後には繭になるもんね。
思わずそんな言葉をかけたくなる姿。
蚕部屋に満ちる、糸を吐きだすショワショワショワショワという音も、あと2,3日で静かになるでしょう。

 

火曜から始まった繭づくり。
個体差があるので、2日遅れでスタートした蚕たちは、まだ薄い衣越しにその姿を見ることができます。

 

帰れないんだよなぁ。。。
いつまででも見ていられる、営繭の様子。
今年もお蚕さんたちに会えてよかった。
桑畑の佐藤さんご夫妻のお元気そうなお顔を見られてよかった。
後ろ髪ひかれながら、そろそろエンジンをかける時間になりました。

 

(ゆ)

 

ありがとう

2022年6月30日

中4日開けて、小高に戻ってきました。

火曜の昼ごろ、久米さんから連絡がありました。
「始まったよー!」
あぁ、間に合わなかった。火曜の深夜に、小高に着く予定でした。
上蔟(じょうぞく)の作業を手伝いたかったのです。

成熟したお蚕さんは、「繭になりますよー」というサインを出してくれます。
真っ白でむちむちしていた体を飴色に変え、ほんの少し縮みます。久米さん曰く「ぷりっとした感じが減る」という状態です。
体を弓なりにし、頭をふりふりし始めるのが、そのサインです。

サインが来たら、準備した蔟(まぶし)にお蚕さんを移して繭づくりをはじめてもらわねば。
ここはもう、人間の都合は関係なく、蚕のタイミングに合わせるのみです。

水曜の朝、蚕小屋を開けると天井から蔟4枚が吊られていました。

きれい。
形のいい、美しい繭が整然と並んでいました。

すこし成長がゆっくり目の蚕さんたちの蔟では、まだたくさんうろうろしている子がいます。
体の色は変わっているので、〝そのとき〟はきっともうすぐ。

桑の葉でタワーを作る養蚕方法の「カンボジア方式」蚕ベッドでも、ちらほらと糸を吐いている蚕さんが見られました。

こんなに細いのにはっきりと光沢が分かる糸が、口からスーッと伸びるさまは、いくら眺めても飽きることはありません。

蚕ベッドを解体し、桑畑をお借りしている佐藤さんご夫妻に上蔟の報告に行きました。
ふと、数日前に捨てた桑の枝の束に目をやると、、、

 

健気(泣)
お掃除のときに桑と一緒に外の世界へ運ばれた蚕さん、野生でしっかり営繭していました。
ごめんねぇ、気づかなくて。
でもたくましいですよね。ちゃんと繭になってくれた。
浮船の里へ連れて帰りました。

やっと一息ついたころ、小高を包んだ夕景の、すばらしかったこと。

この雄大な空を見ていると、心が凪いでいきます。
今日という日が無事に終わった。
お蚕さんたちの旅も順調に進んでいる。
ありがとう。

誰にだろう、お礼を言いたくなるのです。(ゆ)

 

ショーマストゴーオン

2022年6月25日

久米さんのFacebookを見ている方はもうご存知ですね。
梅雨空の小高・浮船の里に、今年もお蚕さまがやってきました。

例年の倍の数がやってきて奔走(と疲弊)した昨年の教訓を生かし、今年はちゃんといつも通り。
5,000頭です。

6月17日にお迎えしてから6日目にあたる22日、2022年春の蚕さんたちと対面しました。

「ちっちゃい」。


チョコレート菓子の小枝のチョコを、もう少したっぷりつけたくらい。

8年目のお手伝いになりますが、なにもかも毎年新鮮で、作業をしながらいろいろ思い出します。
お掃除の手順、桑の切り方、蚕さんたちの習性。

朝たっぷりあげた桑の葉を

きれいに食べ尽くしてくれるとうれしい!というのは毎年おんなじ。
1日のうちで、朝と夕方でさえもサイズが違う。
蚕の成長は目を見張るものがあります。

 

そうそう、去年から浮船の里の蚕小屋は一戸建てにお引っ越ししました。
冷暖房完備、5,000頭をお世話するのにはちょうどいい3畳ほどの広さです。
お蚕さんたちの適正温度は25度。
常時このくらい暖かくないと、活発に活動(桑を食む)をしてくれません。

梅雨時の小高、朝の気温は20度くらいでとっても快適。
蚕小屋の暖房をつけると暑いな、と思うのですが寒がりの久米さんは「ここがちょうどいいわぁ」とニコニコしています。

過ごしやすいとはいえ、朝5時起きの桑刈りが始まり、すでに1週間。
たったの2、3日しかお手伝いしないわたしでも寝不足でぼんやりするので、久米さんはいかばかりか。
いまのところ、元気です。

カメラを向ければ、ほら。

大事なことを忘れていました。
このブログのタイトル「ショーマストゴーオン」。
浮船の里の、養蚕の、どの場面でこんな言葉が出てくるのか、と思いませんか。

蚕部屋に、久米さん愛用の携帯音楽プレーヤーが置いてあります。
その日の気分で、島津亜矢やアヴリル・ラヴィーンのアルバムが流れてくるのですが、着いた日の夜の楽曲がQueenの「ショーマストゴーオン」でした。
タイトルが、まさに養蚕を表しているなと思ったのです。
蚕がやって来たら、あとはもう繭になるまでひたすら桑をあげて育ってもらう。
始まれば、もう前に進むしかないのです。

ものごとなんでもそうでしょうけれど、不意に流れてきたこの曲は、とても胸にささりました。
この週末、蚕さんたちの食欲は最盛期に入ります。
小高から小田原に帰ってきた途端、うんざりするほどの暑さと湿気に萎えていますが、今日からは小高も気温が上がる予報。

どうかバテずに、上蔟までたどりつけますように。(ゆ)