月曜日、蔟(まぶし)に移動してもらったお蚕さまの様子を覗くと、営繭(えいけん)が始まっていました。
養蚕でいちばん興味があるのが、営繭の観察。
糸を吐く様子を見るのは、本当に飽きません。
まだ、丸い繭のかたちができる前の薄さ。
かたちができ始めてきました。
黙々と糸をはくお蚕さま。
通常は蔟(まぶし )の一部屋ごとに作ってもらうのですが、今年もいました。場外に営繭してくれるお蚕さま。
蔟(まぶし)を天井から吊る作業をしようと、うんちとおしっこ用に敷いていたダンボールをペラッとめくったら。。。
なかよく場外営繭です。
ねえねえ、きみは一体、どこに繭をつくるんだい?
ぼくはみんながよく見えるように、お部屋の外に。
わたしも、外がよく見えるように、明るいところで。
ぼくはちょっと出遅れちゃったから、みんなの様子を見て、営繭の仕方を勉強してから始めるね。
9つの蔟(まぶし)がすべて天井から吊られて、床をお掃除してひとまずこれでひと段落。
1週間後には、立派な小高育ちの春繭が完成します。
土曜の桑刈り、日曜の上蔟、月曜のお掃除。
怒涛の2日半でした。
そしてお蚕さまだけに捧げた2日半。
たった2日半のお手伝いで疲労困憊したのですから、毎日お世話をしていた久米さんと里美ちゃんはいかばかりか。
ニュースも新聞も、ほぼ見なかった小高での時間。
お蚕さま一色の生活は、貴重な経験になりました。
(裕)
準備がいつ整うかは、お蚕さま次第。
それは突然にやってきました(と思うのは、きっと人間だけ)。
営繭を始める準備が出来たよ、というお蚕さまからのお知らせに、朝のお掃除で気づきました。
蚕ベッドのあちこちで、すでに糸を張り始めている姿が散見されたのです。
顔を上にあげて、体を弓なりに反らせている姿もちらほら。
毎年久米さんが記録しているお蚕さま日記では、上蔟は翌日の予定でした。
タイミングが来たのなら、人間がやることは粛々と次の段階への準備をすることだけ。
里美ちゃんが陣頭指揮を執り、久米さん、木田ファミリー、小田原チームふたりの計7人で作業に取りかかりました。
ここからほとんど、写真がありません。
なにせ怒濤の上蔟作業。それが10,000頭ともなると、息つく暇も無く、手が空くこともなく、
夕方5時過ぎまで動きっぱなしでした。
桑の葉に埋もれて育った蚕ベッドから蔟(まぶし)へ、お蚕さまを移します。
蔟は1台に1,560頭のお蚕さまが入居可能。お椀に40頭ずつお蚕さまを盛り、蔟へ移動します。
この画像、あったらよかったのですが、見た目には結構ショッキングかも。
もじゃもじゃ、うじゃうじゃ、おんなじような顔が無数にムニョムニョしているのです。
ブツブツと小声で頭数を数えながらひたすら蚕を移動し、蔟がいっぱいになったら蚕部屋に持ってゆく。
その繰り返しです。
計9台の蔟に、引っ越しが終わりました。
ここからはお蚕さまの独壇場。
わたしたちのしごとはまもなく終わりですが、蚕たちはそれぞれ、たったひとりの旅に出ます。
体長10センチほどの体から、1.3キロメートルもの糸を吐く、長いながい旅の始まり。
旅の前の準備で、お蚕さまはわたしたち人間とおなじことをします。
おトイレです。
念願叶って(何年も通っていて、この瞬間を撮ることが目標でした)、おしっことうんちの瞬間を、ついに撮ることが出来ました。うんちはともかく、おしっこは本当にタイミングが難しいのです。
性格や人生の進み具合が十人十色なのも、人間と一緒。
営繭をはじめた蚕もいれば、まだむしゃむしゃと桑を食んでいる蚕もいます。
でもいずれはみーんな、繭になるのです。
ただ、準備が整うタイミングが違うだけ。営繭前のお蚕さまは、こんなふうに気ままに過ごしております。
この薄さだと、糸はどのくらいの長さになっているのでしょう。
無事に上蔟が終わった後、みんなで数の当てっこをしました。
配蚕所から来たお蚕さま、箱には「1万」と書いてありました。
ここまで来る途中で命を終えた蚕もいますが、ここまで育ってくれて繭になると、ようやく正確な数が数えられます。
数の予想は、下が8,320から上は10,100まで。
いくつでもいい。
お蚕さまの旅が無事に終われば、それでいいのです。
(裕)
ご無沙汰しています。
今日も広く青い空の小高から、2021年の春繭の様子をお届けします。
浮船の里のFacebookページをご覧いただいている方はすでにご存じのように、今年は多いです。
例年5,000頭のお蚕さまが、、、今年は倍!
10,000頭来ました。
これだけの数が居るので、当然なにをするにも時間がかかる。
久米さんと里美ちゃん、いつもと手順を変えてお掃除を先に、桑刈りは後になど、試行錯誤で8年目のお蚕さま仕事に臨んでいます。
それでも(それだから?)二人とも、とても元気です。
朝の5時から、手も良く動きますが口もよく動く(笑)
爽やかな朝の空気に軽やかなおしゃべりが溶けて、お蚕さま仕事で免疫力アップしているのかしら、と思うほど。
久米さんにカメラを向けたら、マスク越しでも十分伝わる笑顔で応えてくれました。
蚕部屋のお掃除が終わると、次の仕事は桑刈りです。
今年も佐藤さんご夫妻が丹精込めてくださったおかげでみずみずしく成長した桑を、10,000頭のお腹を満たすべく、せっせと刈っていきます。
途中、熟した桑の実をぽいぽい口に放りこめるのは、畑仕事の特権!
浜通りでも27℃に達した今日の暑さ、桑の酸味で気合いを入れ直しました。
ところで、浮船の里で育てられる蚕には「久米さんにくっついて旅をする」というDNAでも組み込まれているのか、と思うほど毎年さまざまな場所に出没するお蚕さま。
お孫さんの部屋やら、うわっぱりの裾やら、最早そんなに驚きもしないのですが、予期せぬ場所で見つかれば、やはり、なんでそこに??と思います。
今日はお掃除の途中で、割烹着のポケットの中におわすところを見つけました。
桑刈りが終わり、一息ついたのが午前10時半過ぎ。
近所のカフェでおいしいコーヒーをいただいて、リフレッシュしました。
目の前に広がるのは緑の田んぼと澄んだ空、聞こえるのはさわさわという風の音と鳥の声だけ。
これこれ、これが〝小高時間〟なのです。
動画を撮ったのですがアップできなくて残念。思いおもいに、〝小高時間〟をご想像ください。
そのあとは午後2時と7時にたっぷり桑をさしあげて、今日のお蚕さま仕事が終了。
(あしたは4時半起きだそうです。。。)
一日の終わりは、こんなやさしい夕焼けでした。
あしたはどんな日になるだろう。
あしたのお蚕さまは、もっと大きくなっているのかな。
ふと、思いました。
ただひたすらに桑を食む10,000もの命に触れていることで、免疫力が上がるのかも。
ぷりぷりとした滑らかな感触のお蚕さまを思うと、そんな風にも感じます。
(裕)
ひさびさのブログです。
浮船の里ファンの皆さま、お変わりなくお過ごしでしょうか。
小高の空は変わらず、遮るものなく広がっています。
空気がピリッと締まって気持ちのよい小高に、届け物に来ました。
久米さんが、おととしの秋繭を紡いだ糸で織りあげた生地を、小田原の佐藤宏子さんが日傘に仕立ててくれたのです。
自分で育てたお蚕さまで自ら紡ぎました。
藍を使いさまざまに染めた糸。カラフルな生地を、「どんな貼り合わせにしようかな~」と宏子さんが楽しんで工夫してくれました。
出来上がりがこちらです!
ご満悦の久米さんも。
小高は、変わりなく元気です。
7月10日、今朝の小高には輝くような太陽が昇りました。
上族から10日が経ち、今日は繭かきです。
繭かきとは、蔟(まぶし)いっぱいにできあがった繭を「掻いて」取り出す作業。
5つの蔟すべてを蚕部屋の天井から下ろし、まずは久米さんとわたしでチェック。
光に透かして、薄い繭や弱い繭、お蚕さまが中で力尽きてしまっている繭などを見つけて、取り除きます。
(これを怠ると、あとで大変なことになります)
繭かきは、桑畑を貸してくださっている佐藤公一さん、ヨシ子さんご夫妻のお宅の元蚕部屋で行いました。
ここには秘密兵器が!
秘密兵器を使う前に、もう一度光でチェック。里美ちゃんの目は真剣です。
公一さんと、2人の目で見ると、まだ取り除かなければいけない繭がありました。
チェックが終わった蔟(まぶし)を、マユクリンという機械に通します。
突起がついたローラーが回転し、蔟の一つひとつの四角を柔らかく押し出すようなかたちで繭を取り出せる、優れもの。
ローラーに絡みつくふわっふわの糸は、まるで羊毛のよう。
そしてその手触りはどこまでもやさしく、持つとこのうえなく軽いです。
マユクリンからはポンポンポンポン繭が飛び出てきて、あっという間に山が出来ました。
光のチェックを怠ると、薄くて弱い繭が機械を通った時に中の蛹が機械で潰されて、せっかくの糸が台無しになってしまいます。
逆に言えばそれほどに、お蚕さまががんばって作った繭はしっかり丈夫です。
繭かきは40分ほどで終了。
おかあさんが育てたきゅうりの特製浅漬けとみかん、南相馬銘菓の流山まんじゅうでお茶の時間です。
わたしはこの時間が本当にだいすき。
世間話やら、今回の養蚕のちょっとした感想など、和やかなひとときです。
わたしはきゅうりに夢中で、おかあさんが出してくださったお皿いっぱいのお漬物、全部たいらげました(そしてお土産分も頂戴する始末)。
さて、浮船の里に戻ると最後の作業です。
できあがった繭を糸として使うための下準備。
まずは、繭を覆う薄い膜のような糸をはがし、
100個ずつポリ袋に入れます。
夥しい数の繭の中には、個性が際立つものがちらほら。
同じ日にうまれて、同じように桑を食べて育ったお蚕さまたち。
小さな繭、ピーナツみたいにくぼみができた繭、真四角の繭、先がとんがった繭、珊瑚のカケラのようなちょっと変わった形の繭。
ピンポン玉より少しちいさいくらいのものは、2頭で営繭した「親繭」というそうです。
かわいらしいハート型の繭、初めて見ました。
蔟で営繭してくれたお蚕さま4,700頭、カンボジア方式で営繭してくれたお蚕さま376頭。
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カンボジア方式とは、これですね。
いつまでもウロウロして蔟のお部屋に入らなかった蚕さんたちは、桑の枝の集合マンションで、マイペースに営繭してもらいました。
2020年の春繭は、ぜんぶで5,076個。
5,000頭買ってきたのですがまぁ、そこは問題なし。
塊でありながらすでに鈍い光沢を放っている繭を見ると、すなおに「ありがとう」という言葉がわいてきます。
大きいも小さいも、それは個性。
こもった繭のその中で、使命を終えたお蚕さまたちはなにを思っていたのだろう(過去形なのは、すでにこれを書いているいま、繭は冷凍されているため)。
わたしたちは秋までちょっと、一休みです。
(裕)