ひさびさのブログです。
浮船の里ファンの皆さま、お変わりなくお過ごしでしょうか。
小高の空は変わらず、遮るものなく広がっています。
空気がピリッと締まって気持ちのよい小高に、届け物に来ました。
久米さんが、おととしの秋繭を紡いだ糸で織りあげた生地を、小田原の佐藤宏子さんが日傘に仕立ててくれたのです。
自分で育てたお蚕さまで自ら紡ぎました。
藍を使いさまざまに染めた糸。カラフルな生地を、「どんな貼り合わせにしようかな~」と宏子さんが楽しんで工夫してくれました。
出来上がりがこちらです!
ご満悦の久米さんも。
小高は、変わりなく元気です。
7月10日、今朝の小高には輝くような太陽が昇りました。
上族から10日が経ち、今日は繭かきです。
繭かきとは、蔟(まぶし)いっぱいにできあがった繭を「掻いて」取り出す作業。
5つの蔟すべてを蚕部屋の天井から下ろし、まずは久米さんとわたしでチェック。
光に透かして、薄い繭や弱い繭、お蚕さまが中で力尽きてしまっている繭などを見つけて、取り除きます。
(これを怠ると、あとで大変なことになります)
繭かきは、桑畑を貸してくださっている佐藤公一さん、ヨシ子さんご夫妻のお宅の元蚕部屋で行いました。
ここには秘密兵器が!
秘密兵器を使う前に、もう一度光でチェック。里美ちゃんの目は真剣です。
公一さんと、2人の目で見ると、まだ取り除かなければいけない繭がありました。
チェックが終わった蔟(まぶし)を、マユクリンという機械に通します。
突起がついたローラーが回転し、蔟の一つひとつの四角を柔らかく押し出すようなかたちで繭を取り出せる、優れもの。
ローラーに絡みつくふわっふわの糸は、まるで羊毛のよう。
そしてその手触りはどこまでもやさしく、持つとこのうえなく軽いです。
マユクリンからはポンポンポンポン繭が飛び出てきて、あっという間に山が出来ました。
光のチェックを怠ると、薄くて弱い繭が機械を通った時に中の蛹が機械で潰されて、せっかくの糸が台無しになってしまいます。
逆に言えばそれほどに、お蚕さまががんばって作った繭はしっかり丈夫です。
繭かきは40分ほどで終了。
おかあさんが育てたきゅうりの特製浅漬けとみかん、南相馬銘菓の流山まんじゅうでお茶の時間です。
わたしはこの時間が本当にだいすき。
世間話やら、今回の養蚕のちょっとした感想など、和やかなひとときです。
わたしはきゅうりに夢中で、おかあさんが出してくださったお皿いっぱいのお漬物、全部たいらげました(そしてお土産分も頂戴する始末)。
さて、浮船の里に戻ると最後の作業です。
できあがった繭を糸として使うための下準備。
まずは、繭を覆う薄い膜のような糸をはがし、
100個ずつポリ袋に入れます。
夥しい数の繭の中には、個性が際立つものがちらほら。
同じ日にうまれて、同じように桑を食べて育ったお蚕さまたち。
小さな繭、ピーナツみたいにくぼみができた繭、真四角の繭、先がとんがった繭、珊瑚のカケラのようなちょっと変わった形の繭。
ピンポン玉より少しちいさいくらいのものは、2頭で営繭した「親繭」というそうです。
かわいらしいハート型の繭、初めて見ました。
蔟で営繭してくれたお蚕さま4,700頭、カンボジア方式で営繭してくれたお蚕さま376頭。
↑
カンボジア方式とは、これですね。
いつまでもウロウロして蔟のお部屋に入らなかった蚕さんたちは、桑の枝の集合マンションで、マイペースに営繭してもらいました。
2020年の春繭は、ぜんぶで5,076個。
5,000頭買ってきたのですがまぁ、そこは問題なし。
塊でありながらすでに鈍い光沢を放っている繭を見ると、すなおに「ありがとう」という言葉がわいてきます。
大きいも小さいも、それは個性。
こもった繭のその中で、使命を終えたお蚕さまたちはなにを思っていたのだろう(過去形なのは、すでにこれを書いているいま、繭は冷凍されているため)。
わたしたちは秋までちょっと、一休みです。
(裕)
今日は夏越しの大祓。
1年の半分を平穏で過ごせたことに感謝し、残り半年の息災を願う日です。
さて、上蔟から一晩たった蚕部屋を朝のぞくと。。。
5,000頭のなかでも成長が早かった蚕さんたちは、ほぼ自分の部屋を定め、繭作りを始めていました。
一方、そのほかの蚕さんたちは
まだ、〝その時〟がやってきていないのですね。
蔟(まぶし)をうろうろしている姿が散見されます。
養蚕の道具を見ていると本当に機能的なものが多く、舌を巻くこともしばしばですが、
蚕さんたちが繭作りを始める直前にする「大事なこと」のために、蔟の下にセットされたこちら。
黄色い網と、さらにその下のビニールシート。
なんだか分かるでしょうか。
体のなかの不浄なものをすべて外に出してから、長いながい糸を吐くお蚕さま。
うんちとおしっこの受け皿です。
ポタンポタン。ポトッ、コロコロコロ。
上蔟後の蚕部屋では、網とシートにそれらが落ちる音があちこちから聞こえます。
昨晩、その瞬間を撮りたくてややしばらく粘りましたが、ついに叶わず。
眠気に負けて帰宅しました。
なので朝一番の仕事は、排せつ物のお掃除でした。
さらに、蔟から網に落ちてしまった蚕さんたちの救出も。
「どうぞお入りください」と言いながら、1頭ずつに最適物件を案内し、入室してもらいました。
少し体が小さかったり、弱々しい蚕さんたちは、久米さんと里美ちゃんが「カンボジア方式」と呼ぶ床置きの特別室に移されました。
桑の葉をたっぷり置いて、ここで繭を作ってもらうのです。
同じ日に生まれた兄弟たちは繭になっているというのに、まだ葉を食べる蚕さんもチラホラ。
繭作りが始まれば、人ができることはもうありません。
これまで食べた桑で蓄えた力を振り絞り、いい糸を吐いてもらうのを待つのみです。
白くてぷりぷりした5齢の蚕さんに触るのがだいすきでした。
もうその姿には会えません。
文字通り手塩にかけて育てた蚕さんたちが作ってくれる、細く、白く、美しい糸を、今度は紡いで、撚って、染めて、織って、手をかけます。
いのちは終わらない。
〝天の虫〟と書く蚕は、〝草かんむりに糸と虫〟の繭になり、最後は糸に姿を変えて永遠に生き続けます。
(裕)
昨日ずーさまのお知らせが来たので、今日は上蔟と決まっていました。
晴れわたり、爽やかな風の吹く朝。繭になっていただくには、ぴったりの始まりです。
昨日先に一つだけ吊った蔟(まぶし)に入れた蚕さんたちが、光に透ける繭を作り始めていました。
その下には、脱走しそうになっている蚕たち。
「繭になる準備ができているんだよ!」と言っています。
フライングして、蚕ベッドの隅に繭を作りかけた形跡も。
里美さんと久米さんと、組み立てた蔟に蚕たちを移す作業からスタート。
お椀片手に、蚕さんたちを数えて拾う、の繰り返し。
蚕は上にのぼっていく性質があるそうで、区切られた蔟の部屋に入ろうと、もぞもぞ動きまわります。
ちょっと目を離すと、こんなふうに場外に直立していたり
苦しくないのかしら、仰向けになっていたりするのでビックリします。
3頭並んで繭づくりを始めた仲良しさんたちもいました。
こうして5,000頭の蚕をすべて蔟に移したところで、2週間寝ていただいた蚕のベッドは解体。
床もきれいに掃除して、今度はすべての蔟を天井から吊る作業です。
久米さんと里美ちゃん、息を合わせて、7年目の春繭のラストスパートにかかります。
これが終われば、あとはお蚕さまたちに、ただひたすらに糸をつくってもらうだけ。
2週間にわたり毎日、桑を運んでくれた浮船号も、今日で一段落です。
久米さんにピカピカに掃除をしてもらい、車内に香っていた桑の匂いとも一旦おさらば!
無事に5つの蔟が天井から下がり、あっという間に上蔟の1日は終わりました。
まだ部屋が決まらない蚕たちが、もぞもぞもぞもぞ。
蔟が床から目の高さに移動したので観察がしやすくなりました。
繭になる準備が整った飴色の美しい体に、目が釘付けです。
上蔟初体験のわたしは、とにかく足を引っ張らないように緊張しっぱなし。
くたびれました。。。
ほっとして、1日の終わりにはいつもの夕景を。
今日の空は、清々しいのにどこかさびしいブルー。
カエルの大合唱を聞きながら、浮船の里に戻りました。
蚕部屋では一生懸命、お蚕さまたちが繭をつくっています。
かわいらしい、ピーナツみたいな繭が早くも出来ていました。
(裕)
来ました、その時が。
お蚕さまから、「『ずー』になります(なりました)」のお知らせが。
「ず-」とは、繭になる直前の蚕の呼称。
体の色が明らかに変わります。
左がずーさま、右はまだのこ。
飴色になり、ぷりんぷりんに張った体が一回り小さくなるような。
これが〝繭になりますよ〟のお知らせです。
5,000頭のうちずーさまになっているのは、1割にも満ちません。
本格的に上蔟のしつらえにする前に、藁のおうちに移動してもらいました。
ずーさまは、体を大きくのけぞらせます。
そして糸を張る場所を探して、頭を振ります。
こちらは、桑の葉の間に繭を作ろうとしていたずーさまを見つけたので、その場で写したもの。
糸が光に透けて、とてもきれいなのです。
ちょうどずーさまを見つけたとき、小高は朝からの雨が上がり、それはきれいな青空が出ました。
虹を探して外に出たのですが、十分に満足の空。
夜、ふたたび蚕部屋に行くと、さらに数頭のずーさまが見つかりました。
いよいよ明日、蔟(まぶし)を吊して、上蔟の準備です。
今年もいい繭ができますように、今晩は半月によーく願ってから休みます。
そうそう、昼間に探していた虹は、夕方に出ました。
大きなアーチを描き、小高の空を包んでくれました。
(裕)