#3 浮船の里のこれから

−− 500頭だけだけど、お蚕様を育てて繭をとるところまではできました。織物も、かなり上達しました。ちょうど一年前に夢みたいに語っていたことが、何とかここまでは来ました。ここまでやってきて、浮船の里のこれからについては、どんなふうに考えていますか。
久米: お蚕様は飼い続けたいですよね。楽しいですから。それに、あんなに喜んでくれる佐藤さんのためにも飼い続けたいです。お蚕様飼ってどうするの?と言われても、正直、わからない部分もあるけれど、私達が続けて、何らかの道筋をつくることができれば、佐藤さんみたいな、震災前まで養蚕をやっていた方達も、もう一度お蚕様を飼おうと思ってくれるかもしれないという思いもあります。そうなるといいですよね。数百頭飼って喜んでいるだけでは、ただのクラブ活動ですから。
−− 真綿なら欲しいという方はいるようですから、丁寧に飼ってできた繭を、丁寧に手でほぐした真綿ということで付加価値が高まるなら、真綿のまま売るというのも一つの出口ですよね。

写真:重曹で煮ると繭はほぐれる。ほぐして広げて4枚重ねて乾かすと真綿になる。


写真:真綿は、本当に柔らかく、美しい。
久米: 月に2〜3万円でいいから、稼げるようになりたいですよね。人間、稼いでいないとダメになってしまいますから。それに、少しでもいいから小高で稼げれば、小高に住むことにも意味が生まれてきますし。
−− 織物のほうは?
久米: お蚕様を育てて、その繭から真綿をつくるところまではできたけれど、糸にして、それで織ることができるようになるまでは、まだまだ時間がかかります。お蚕様を飼って、手で糸を紡いで、手で織るという物語はあるけれど、それが実現するのはいつのことになるか…。佐藤さんのように、織物にも先生が必要ですよね。先生がいないととてもじゃないとできない。織姫を増やしたくて、織物体験教室を始めたところですが、先生不在で教室なんて名乗れないので、「織姫クラブ」、つまり、仲間同士のクラブ活動と位置づけてやっていくのかなと思っています。

写真:「織姫クラブ」は学び合いの場
−− お蚕様や織姫の活動が中心になってきた感がありますが、そもそもの目的であった、「来る人が話をできる場所」としての「浮船の里」の役割については、どうなっていくのでしょう?
久米: それは変わらないですよね。浮船の里=あすなろ交流広場は、人がいつでも寄ってくれる場所でありたいと思います。色んな人が来て、色んな話をする場であるといいなと。平日は私がいる限りは、開け続けます。最終的に誰が手を引いたとしても、私はあそこにい続けます。織物をしながら、お蚕様を飼いながら、人が来るのを待ちます。織物やお蚕様に惹かれて来る方もいるでしょうし。
−− 久米さんは休めないじゃないですか(笑)。
久米: うまく皆で支えていける体制をつくれればいいのですが…。だた、今まで外の方との接点は自分が担ってきたので、どうしても「久米さんは?」と言って来られますから、致し方ないところもあるんですよね。
−− 芋こじ会はどうしていきましょうか。
久米: 芋こじはやり続けたいですよね。今のメンバーも、芋こじだけは続けたいって言うんです。芋こじにはきっとそう言わせる何かがあるのだと思う。私たちがこうやって普通の言葉でしゃべれるようになったのは、芋こじがあったから。それが芋こじの力だと思っています。外の人達と話せる。色んな知識のある人達の話が聞けて、話を聞いてもらえる。それが良かったんだと思います。
−− 芋こじにヨソ者がいることは大事なのでしょうか?
久米: よその人がいてくれることは、凄く大切。よその人がいなくなって、地元の人間だけになったら、きっと原発の話とお金の話ばかりしていると思う。地元の人間だけでは、芋こじが開かれた場にならない。それでは続かないです。色んな人が来て、色んな人と会える。色んな人と話ができる。そういう開かれた場であることが大事なんじゃないかなと思います。
 それと、芋こじは、ただ話し合うだけの場、ということが重要なんだと思います。芋こじが、何かをするための場になると、辛い人が出てくる。ただ聞いて欲しいんです。「こうしろ」とか「ああしろ」とかは言われたくないんです。
 色んな人が集まって来て、色んなことを話し合う。そうやって話し合う中で、こういうことやりたいというのが出てきたら、口に出した人が中心になってやっていく。芋こじが、そういう場になっていけたらいいですよね。
−− 小高の人のためにつくった浮船の里ですが、そこは同時に、小高を開いていくための場所でもあるのですね。
久米: 色んな人がここを目指して来てくれるから、ここに来れば色んな人に会って、色んな話ができる。そして色んな人が、小高を案内してあげる。そうなるのが夢です。
(2014年9月20日取材)

写真:「あすなろ交流広場」の庭には、いつも鯉のぼりが泳いでいる。

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